Liner notes

Liner notes

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girl’s bicycle


とにかく途方にくれていた16歳夏、図書館前 屋上につづく階段のちいさな踊り場だけが唯一の頼り。ひとりでいたって、心の中は見透かされていた。


ひどい暑さの中、丸襟シャツの半袖のはじをめくって、スカートは膝上ギリギリに、足首丈の白ソックスを履いても事態は変わらない。もうずっと待っているのに。


暑さと憂鬱から逃げてばかりいてもしずかに歳はとるんだろうけど、それでも依然として夏は海沿いにきらめいていた。バレッタを外したわたしは早くおとなになりたい。


退屈な朝、カーテンを開けて、階段を早足で下りて、ゆっくりごはんを食べたら急いで身じたくをして、精神のとがってしまうようなニュースはあまり見ないで、そぞろ歩きのグレーの甲羅の蟹たちを眺めていよう。


波のひかりに浮かべたら、無数のちいさな悩みなんて、自転車で蹴散らしに来てくれないかな。お気に入りのワンピースは着たし、夕方テレビで放送される映画の予約もバッチリだから。


暑さで髪の毛が顔にくっついてくる。夏のわたしは、氷とチョコレートを口で溶かしなが

ら、ずっと待っている。


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lovers


小雨なら傘は持たずに出るのがいつもなのだけれど、ちょうどどしゃぶりのタイミングで出てしまったので、空いている右手で濃い緑の傘をさして歩いた。


燦々とした日差しに負けじと、街中のシャワーを集めても足りないほどの水、水。

お日様はふるってこの街に光を与え、雨は一粒も漏らすことなくそれを反射させては思い思いに落ち、飛び跳ねる。水たまりにうつった白線の上に、いちょうの葉っぱがひとり落ちて

いた。


緑色の傘ってとてもいい。それにこれははじのカーブの感じも若干きつくなっているし、柄の部分も木でできている。よく見る傘よりも粋な感じがする。


ふと、わたしたちが別々の場所にいた頃も、この傘は君の手の中にあったのだと思った。しぶくてカラフルな葉っぱが舞い落ちる風景を通りすぎる。濡れた商店街はなんだかいつもよりやさしい。


歩く速度を遅める。目まぐるしく色の変わるこの季節をしっかり見ておこうとしたけれど、頭の中は今日の夕飯のことでいっぱいだった。考えながら歩くと手の中でゆっくりと柄を回してしまう。緑の傘はくるくる回る。最初に目玉焼きをふたつ作ろう。くるくる。卵はまだあったっけ。緑色の傘を褒めたい。くるくる。天気雨がすごくきれいだったことも話したい。くるくる。すこしテレビを見て、それから君と乾杯しよう。


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sweet dayz


となりの席の彼女はずっと学校を休んでいる。なんでも気が向かないとかいう理由らしい。 僕は絶対に休まない。気が向かないとか向くとかじゃない。行かなければいけないものなんだ、学校というのは。


先生からの伝言も、班でつくったお見舞いカードも、もちろん授業のプリントもぜんぶ僕が渡しに行かなくてはいけないから大変だ。幸い(はたして幸いと言えるのか)家はすぐ近くなので、すこし遠回りして帰れば問題はないのだけれど。

いつも外にいるリュークがこちらに向かって吠える。持っていた班長旗を振って、バイバイをする。すぐに見えるチューリップの花壇を左に曲がる。しばらく行くと白い門が見えてくる。


案の定、ほら、またこれだ。だからニガテなのだ。ベルを鳴らしたらまず彼女は仁王立ちで出てきて、イヤフォンをしたままこちらを冷めた目で見てくる。肩でそろえた茶色い髪の毛は、夕方の街にとけた風に揺られてさらさらなびいている。僕がごそごそ鞄の中をのぞいてる時も、じっと見ている。思ってなさそうにありがとうと言ってプリントの束を受け取る。


やっぱり怖いな、じゃあねとだけ言って僕は帰るんだけど、でも今日はなんとなくチューリップの花壇のところでちらりと後ろを見た。そしたらいないと思った君はまだ僕のことを見送っていた。驚いた。みたことないような、大人みたいなポーズで、横のドアにもたれて。なんとなくいつもより、機嫌がよさそうに見えた。


帰り道、今まで深く考えたことのなかった彼女のことを始めてちょっと考えた。どうしていつもイヤフォンをしているんだろう。


彼女の耳に流れている音楽がなんなのか気なった。ぼくの知らない音楽なんだろうな。そもそもいつになったら学校に来るんだろう。早く来てくれないとプリントをいつまでも渡さなくてはいけない。でもどんな音楽を聴いているのかみんなの前で聴くのは恥ずかしいな。もし明日も学校に来なかったら、そのときはドアの前で教えて欲しいと言ってみよう。僕の家のチューリップをあげてみようかな。もしかしたらたくさん教えてくれるかもしれないし、

学校に来るようになるかもしれない。


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hotcoffee


彼女は居心地のよすぎるクリーム色のソファの上で目を閉じ、夜明けのバスに乗って遠くの街に出かけるときに鉄橋を渡るとだんだんと岸の向こうに見えてくる無数の光のことを想った。


深い青から朝の青に変わる空の模様とあいまって、だんだん近づいてくるひとつひとつの窓からのぞく部屋の灯りがまるで宝石のきらめきのようなのだ。


そのきらめきの中の一部屋に彼女はいた。 最近買ったレコードをかけて、マスターにブレンドしてもらったコーヒーをお気に入りのカップに注いでしまうと、彼が来るまでこれ以上なにも準備することはなかった。 ミルクとお砂糖を用意し忘れたことに気づき、テーブルの上に置いたらいよいよすることがない。暖かな部屋の温度に、すぐにまどろんでしまう。


彼はきっと外から冬の夜を持ち帰るだろう。あまりにつめたいので、温めた大きなカップにたっぷりコーヒーを入れてあげよう。もちろんミルクもたくさん注いで。


うとうとしながら彼を待つ冬の夜が、彼女のお気に入りであるのは言うまでもない。


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最後に


映像や場面を思えるような音楽がすきなのですが、このアルバムの曲たちはすぐにたくさんの景色が浮かびます。


3人でライナーノーツを書こうとなったとき、なんとなく最初に浮かんだのが、「曲をイメージしたショートストーリーをつける」ということでした。 とは言ってもまともに物語を書いたことがないのでかなり苦労しましたがとても楽しかったです。もともと本を読むのが好きなのですが、読むのと書くのでは全然違うなと当たり前のことだけれど思いました。


いつも、なんとなく迅くんの歌詞には「今日は夜にコートを羽織って出かけたくなる日」と

か「恋人とアイスを食べる」とか「好きなだけ映画を見る」とか、ちいさいけれどこれ以上はないと思えるような日々の瞬間が閉じこめられていると思います。メロディは言わずもがな、最高です。


「her favorite seasons」を聴いてくださったみなさんが、そんな気持ちになるときのことを思い出したり、いいなと思っていただけたらとても嬉しいです。


2018 1/15

Laura day romance 井上花月

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